双極性と私:遺伝と環境のストーリー

双極性障害と私:遺伝的素因を理解し、ストレスマネジメントで築く穏やかな日々

Tags: 双極性障害, 遺伝要因, 環境要因, ストレスマネジメント, 当事者体験

はじめに:遺伝と環境、私の双極性障害

双極性障害と診断されて数年が経ち、私自身の症状の波と向き合う中で、常に頭の片隅にあったのが「なぜ自分は双極性障害になったのだろう」という疑問でした。特に、遺伝的な要素と、これまで生きてきた環境が、どのようにこの病気に影響しているのか。当事者として、その複雑な要因を紐解き、理解を深めることは、私にとって自己理解の一歩でもありました。

このブログ「双極性と私:遺伝と環境のストーリー」では、私自身の体験を通して、遺伝的素因と環境ストレスがどのように双極性障害に影響し、私たちがどのようにそれらと向き合い、より穏やかな日々を築いていけるのかについて、正直な気持ちで考察してまいります。

家族の歴史と私の発症:遺伝的素因への気づき

私の双極性障害が顕著になり始めたのは、30代に入ってからでした。仕事での大きなプレッシャーや人間関係のストレスが重なった時期に、気分の高揚と沈滞がこれまでになく激しく現れ、日常生活に支障をきたすようになりました。診断を受け、病気について学び始める中で、私はあることに気づきました。私の父方の祖母が、若い頃から気分の波に悩まされていたという話を、親戚から聞いたことがあったのです。当時は「ちょっと変わった人」くらいにしか思っていませんでしたが、双極性障害という病気を知ってから、それが遺伝的な素因であった可能性を強く感じるようになりました。

もちろん、遺伝が全てではないことは理解しています。しかし、自身の「発症しやすさ」という側面において、遺伝的背景が何らかの役割を果たしているのかもしれない、と考えることは、自分を客観的に見つめる上で重要な視点となりました。私にとって、遺伝的素因は、変えることのできない「前提条件」として、自身の病気を理解する上で避けて通れないテーマとなっています。

日常のストレスが引き起こす波:環境要因の影響

遺伝的素因がもし「土壌」だとすれば、私を取り巻く環境は、その土壌に降り注ぐ「雨風」のようなものでしょう。振り返れば、私の症状が特に悪化するのは、決まって強いストレスにさらされた時でした。例えば、残業続きで睡眠時間が削られた時、人間関係で大きな衝突があった時、あるいは、生活環境が大きく変化した時などです。

躁状態の時は、異常なほどの活力が湧き、睡眠時間が短くても平気で、次々に新しいことに手を出す衝動に駆られました。しかし、その反動で、鬱状態に陥ると、何も手につかず、ベッドから起き上がることさえ困難になります。これらの経験から、遺伝的な素因があったとしても、日々の生活におけるストレス、睡眠不足、不規則な生活といった環境要因が、症状の「波」を大きく増幅させることを痛感しました。

この病気と診断されてから、私は「変えられないもの」としての遺伝と、「変えられる可能性のあるもの」としての環境、特にストレスマネジメントに意識を向けるようになりました。

遺伝と環境の相互作用を理解する

双極性障害の発症には、遺伝的素因と環境要因が複雑に絡み合っていると考えられています。これは「ストレス脆弱性モデル」などとして、学術的にも広く認識されている考え方です。つまり、遺伝的に双極性障害になりやすい素因を持つ人が、強いストレスや不規則な生活といった環境要因にさらされることで、病気が発症しやすくなったり、症状が悪化しやすくなったりする、というものです。

私の体験も、まさにこのモデルと重なるように感じられます。遺伝的な脆弱性があったとしても、それが必ずしも発症に直結するわけではなく、日々の生活における環境、特にストレスへの対処の仕方が、病気の経過に大きく影響を与えるのだと理解しています。この理解は、私にとって大きな希望となりました。なぜなら、遺伝的素因は変えられなくても、環境、特にストレスへの向き合い方は、自分自身の努力で変えることができるからです。

穏やかな日々を築くためのストレスマネジメント

遺伝と環境の相互作用を理解した上で、私が現在、穏やかな日々を築くために意識し、実践しているストレスマネジメントについてご紹介いたします。これらは、症状の波を穏やかにし、将来への不安を軽減するために、私自身が日々の生活の中で見出してきた工夫です。

  1. 規則正しい生活リズムの確立: 睡眠と覚醒の時間を一定に保つことは、気分の安定に不可欠です。平日はもちろん、休日もできるだけ同じ時間に起き、同じ時間に寝るよう心がけています。
  2. ストレス源の特定と対処: 何が自分にとってストレスになるのかを把握し、可能であればその原因を避ける、あるいは対処法を考えるようにしています。例えば、仕事での過度な責任は抱え込まず、適度に周りに相談する、人間関係のトラブルは早期解決を目指す、などです。
  3. 心身のリフレッシュ: 適度な運動(ウォーキングや軽い筋トレ)、趣味の時間、瞑想など、心身をリラックスさせる時間を意識的に設けています。これらはストレスを軽減し、気分転換に役立ちます。
  4. 気分の記録(ジャーナリング): 毎日、その日の気分や出来事を記録しています。これにより、自身の気分のパターンや、特定のストレス要因と気分の変動との関係を客観的に把握できるようになりました。これは、早期に気分の変化を察知し、対応するための重要なツールです。
  5. 医療機関との連携と服薬遵守: 担当医との定期的な診察、そして処方された薬を正しく服用することは、病状を安定させる上で最も基本となることです。自己判断で服薬を中断することは、症状の悪化に繋がるため、絶対に避けるべきです。
  6. 家族や周囲とのコミュニケーション: 家族や信頼できる友人には、自身の病状や感じていることを率直に伝えるよう努めています。彼らの理解とサポートは、大きな心の支えとなり、孤立感を軽減してくれます。

これらの実践は、決して完璧ではありませんが、少しずつ、確実に私の生活に安定をもたらしてくれています。

未来へ向かって:自己受容と継続的な調整

遺伝的素因や過去の環境は、私たちの病気の背景にある「変えられない事実」かもしれません。しかし、私たちはその事実を受け入れつつも、現在の自分ができることに焦点を当て、未来をより良いものへと変えていく力を確かに持っています。

双極性障害は、一生涯にわたる付き合いが必要な病気かもしれませんが、それは絶望を意味しません。自身の遺伝的傾向を理解し、環境要因、特にストレスへの対処法を身につけることで、症状の波をより穏やかにし、自分らしい人生を築くことは可能です。完璧を目指すのではなく、日々の小さな調整と、継続的な努力が、穏やかな日々へと繋がる道だと信じています。

自己受容の心を持ち、前向きな一歩を踏み出すこと。それが、私たちが双極性障害と共に生きていく上で、最も大切なことではないでしょうか。

おわりに:あなたの物語と共に

このブログ記事が、双極性障害と向き合う皆様にとって、自身の体験と重ね合わせ、共感や新たな視点を得るきっかけとなれば幸いです。

双極性障害に関する情報は多岐にわたりますが、本記事はあくまで当事者である私自身の体験と考察に基づいたものです。医療アドバイスや診断、治療法の推奨を目的とするものではありません。ご自身の病状に関しては、必ず担当医にご相談ください。